前回のお話はこちら👇
状況を理解するのは大変だ
「まず、お前さんは自分の状況が分かっておるのかな?」
猫博士が人間にたずねました。
「えっと、ここは死んだ動物のたましいが集まるところで、今僕はそこにいる…。」
人間は答えました。
「うむ、そのとおり。では、そういうところに”うつしよ”で言うところの”生きている”人間が来られると思うか?」
人間はしばらく押し黙っていました。
しばし沈黙が続いたのち、
「じゃあ、やっぱり僕は…。」
そういうと人間はまたしばらく沈黙し、そして、
「あのとき、車で…。」
うつしよで使われている明確な言葉を避けながらも、人間には自分の置かれた状況がはっきりとわかりました。
「のみ込みが早いようじゃな。お前さんのような形で”うつしみ”を失った人間は、それを自覚できず、たましいだけその場にとどまってしまうことも珍しくないというのに。」
猫博士は言いました。
「少なくともこの場までたどり着いただけでもたいしたものですな。」
犬賢者がさらに付け加えました。
「僕が突然ここにやってきたのは天罰なのかな?」
人間がぽつりと言いました。
猫博士と犬賢者はきょとんとした顔をしました。
「僕の家にはナナという犬がいました。ナナは脚が一本切断されてありません。僕の運転する車がナナを巻き込んだのです。急いで獣医に連れて行き一命はとりとめたが脚はダメでした。ナナは近所を徘徊するノラだったのですが、こうなってしまったのも僕のせいだし、彼女を飼うことにしました。もともとどこかで飼われていたらしくナナはすぐ家族になついてくれました。でも僕がこうやって交通事故で命を落とし、ペットたちのたましいの集う場所にやってきたのはやはり天罰で…。」
人間は絞り出すようにしゃべりました。
「なに言っとるんじゃ、お前さんは?」
猫博士がばかばかしいといわんばかりに言葉を遮りました。
「お前さんはナナがそれでお前さんを恨んでいると思っていたのか?まったく人間というやつは、お前さんのようにわしらがちっとも怒っても恨んでもいないことをぐずぐず思うのもいれば、わしらが恨み骨髄になるようなひどい仕打ちを面白半分でやらかしてなんも思わんのもいる。わしらにとっては全く妙ちくりんな生き物じゃ。まあ、後者の場合、わしらとうまくやれるわけがないから絶対ここには来られんがの。」
猫博士は人間の気に病んでいる種をつぶさんばかりにまくし立てました。
「犬も猫も自分の感情にうそはつきませんから、ナナがあなた方に”なついていた”ということが、ナナの偽りのない気持ちの表れだと思いますよ。」
犬賢者も言いました。
「まあ、とりあえず、お前さんの身の振り方じゃな。」
「考えるのはそこですね。」
虹の橋をずっと見守っている犬と猫の長は、このイレギュラーな人間の来訪者について思案せねばなりませんでした。
次回の話はこちら👇
☆作者あとがき☆
突然やってきた「人間」さんはなかなかお優しい方のようです。
事故のショックで本来たどるべきルートからそれて
虹の橋のたもとにやってきたようです。
車の事故でかつて犬を傷つけたことと、
自分が交通事故で死んだことが
心の中でリンクしたせいでしょうか?
まあ、自分の経験からも言えますが、
事故って記憶が飛ぶんですよね。
過去記事にも書いたことがありますが👇
脳内の記憶を録画装置(ドラレコ)に例えると、
ぶつかった瞬間というのは思い返しても
そこだけ電源が切れたかのようにプツッと切れてしまっているのです。
こういうこと書きました。本当のことです。
☆おまけ~ハロウイン準備~☆
やっぱ黒猫にはコウモリやね。
虹の橋たもとの上層部よりねこ森町への外出許可下りました(チビ)。